猫田 響子 (ねこた きょうこ)
猫行動コンサルタント / 愛玩動物飼養管理士1級
猫専門のシッター・相談員として15年以上の経験を持ち、これまでに2,000匹以上の猫と関わる。「猫語翻訳家」としてではなく、飼い主の不安に寄り添う「先輩パートナー」として、猫と人の絆を深めるサポートを行っている。
「愛猫が急に窓の外を見て『カカカッ』と奇妙な音を出した」
「夜中に聞いたことのない低い声で鳴いていて、どこか痛いんじゃないかと心配で眠れない」
今、あなたはそんな不安を抱えてスマホを握りしめているのではないでしょうか?
その気持ち、痛いほどよく分かります。言葉を話せない小さな家族だからこそ、「もし病気のサインを見逃していたらどうしよう」と怖くなってしまいますよね。
でも、まずは深呼吸してください。その不安は、あなたが猫ちゃんを大切に思っている何よりの証拠です。
実は、猫の鳴き声は、音だけでなく「その時の状況」と「体の姿勢」をセットで見ることで、その意味が手に取るように分かるようになります。
この記事では、猫行動コンサルタントである私が、「今すぐ病院へ行くべきSOS」と「見守っていい本能的な行動」の境界線を明確にお伝えします。曖昧な「様子を見ましょう」ではなく、あなたが自信を持って「大丈夫」あるいは「病院へ行こう」と判断できる基準を持ち帰ってくださいね。
【緊急度判定】今すぐ病院?様子見?3ステップでわかるSOSサイン
まず最初に、あなたが一番心配している「病気やケガの可能性」について、白黒はっきりさせましょう。
猫は痛みを隠す習性がある動物です。だからこそ、私たちは小さな違和感を敏感にキャッチする必要があります。
もし、愛猫の様子がいつもと違うと感じたら、以下の3つのステップでチェックを行ってください。これらが揃っている場合、それは猫からの緊急のSOSである可能性が極めて高いです。

1. 音:悲鳴や呼吸音は危険信号
普段の「ニャー」とは明らかに違う音には注意が必要です。特に、「ギャー」という叫び声や、「ハァハァ」という犬のような開口呼吸は、激しい痛みや呼吸困難を示しています。また、普段おしゃべりな子が急に「かすれ声」になったり、声が出なくなったりする場合も、喉の炎症や体調不良の疑いがあります。
2. 姿勢:うずくまりと拒絶
SOSサイン(ギャーなどの異音)と、うずくまって動かない姿勢には、強い相関関係があります。
猫は体調が悪い時、敵に見つからないように小さく丸まり、じっと動かなくなる習性があります。この時、心配して触ろうとすると「ウーッ」と唸ったり噛みつこうとしたりするのは、性格が変わったのではなく、体に触れられると痛むからかもしれません。
3. 状況:生理現象の異常
音と姿勢に加えて、食欲や排泄の状況を確認してください。特に、トイレで何度も踏ん張っているのに何も出ず、苦しそうに鳴いている場合は、尿路閉塞(おしっこが出ない状態)の可能性があります。これは命に関わる緊急事態ですので、夜間であってもすぐに病院へ連絡してください。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「いつもと違う」というあなたの直感は、9割当たっています。迷ったら「動画」を撮って病院へ行きましょう。
なぜなら、病院に行くと緊張して症状が出ない(借りてきた猫状態になる)ことが非常に多いからです。自宅での「異常な鳴き声」や「うずくまる姿」をスマホで撮影しておくと、獣医師への説明がスムーズになり、診断の精度が格段に上がりますよ。
「カカカ」は病気じゃない!よくある「奇妙な音」の正体と対処法
「窓の外を見て、急に『カカカッ』『ケケケッ』と歯を鳴らすような音を出したんです。発作でしょうか?」
これは、私が受ける相談の中でもトップクラスに多い質問です。
結論から言うと、この「カカカ」という音は「クラッキング」と呼ばれる正常な行動であり、病気ではありません。しかし、これと非常によく似た音で、病気のサインである「歯ぎしり」が存在するため、正しい見極めが必要です。
クラッキングと歯ぎしりの決定的な違い
クラッキング(正常)と歯ぎしり(異常)は、音は似ていますが、その発生状況と原因が全く異なります。
クラッキングは、窓の外の鳥や虫など「獲物」を見つけた時に発生します。「捕まえたいのに届かない!」というもどかしさと、狩猟本能による興奮が引き金となって、顎が細かく震えて音が出るのです。
一方、注意が必要なのは「歯ぎしり」です。これは食事中や毛づくろいの最中に「ギリギリ」「ジャリジャリ」と音がするもので、歯周病や口内炎による激痛が原因であることが多いです。

もし、愛猫が食事のたびに変な音を立てていたり、口元を前足で気にしたりしている場合は、口の中のトラブルを疑って病院で診てもらいましょう。
【感情翻訳】「ニャッ」「ゴロゴロ」…この声、どういう意味?
ここからは少し肩の力を抜いて、愛猫とのコミュニケーションのお話です。
猫は本来、大人同士ではあまり鳴き交わさない生き物です。それなのに、あなたに向かってよく鳴くのは、あなたを「母猫」や「特別なパートナー」だと思っているからこそ。
ここでは、代表的な「猫語」を翻訳してみましょう。
短い「ニャッ」は親愛の挨拶
目が合った時に短く「ニャッ(またはクルルッ)」と鳴くのは、「やあ!」「ねえ」といった軽い挨拶です。名前を呼んだ時にこの声で返事をしてくれるなら、あなたとの関係は良好です。ぜひ「なぁに?」と優しく返してあげてください。
「ゴロゴロ」はリラックス…だけじゃない?
喉を鳴らす「ゴロゴロ」音は、基本的にはリラックスや満足のサインです。撫でられている時や、母猫にお乳をもらう子猫が出す音として有名ですよね。
ただし、一つだけ例外があります。猫は怪我をしたり体調が悪かったりする時に、「自分を落ち着かせるため」や「治癒力を高めるため」にゴロゴロと鳴らすことがあります。もし、うずくまって元気がない状態でゴロゴロ鳴っている場合は、リラックスではなくSOSの可能性があります。ここでもやはり、「状況」とセットで見ることが大切です。
究極の愛「サイレントニャー」
口を開けて「ニャー」と言っているようなのに、声が聞こえない…。これは「サイレントニャー」と呼ばれる行動です。
実はこれ、声が出ていないのではなく、人間には聞こえない高周波の声で鳴いています。これは子猫が母猫に甘える時に使う特別な鳴き方。
つまり、サイレントニャーをしてくれたら、あなたは猫にとって「お母さん」のような絶対的な信頼を寄せる存在だということです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: サイレントニャーを見たら、全力で甘やかしてあげてください!
なぜなら、これは成猫になるとやらなくなる子も多い、貴重な「究極のデレ」だからです。「声が出てないよ?」と笑うのではなく、ゆっくり瞬きを返したり(猫のキス)、優しく撫でたりして、愛情を受け止めてあげてくださいね。その積み重ねが、揺るぎない絆を作ります。
【年齢別】子猫・成猫・老猫で変わる「鳴く理由」と注意点
猫も人間と同じように、年齢によって悩みや体の変化があり、それが鳴き声に表れます。ライフステージごとの特徴を知っておくことで、無用な心配を減らすことができます。
子猫:母猫を呼ぶ本能
子猫がよく鳴くのは、母猫(=あなた)に居場所を知らせたり、お腹が空いたと訴えたりするためです。この時期の鳴き声は生存に関わるので、無視せずに優しく応えて安心させてあげましょう。
成猫:発情期の大きな声
避妊・去勢手術をしていない猫の場合、春先などに「アオーン!」「ナーオ!」と大きく太い声で鳴き続けることがあります。これは発情期特有の鳴き声です。
この鳴き声は本能によるもので、しつけで止めることはできません。繁殖の予定がないのであれば、避妊・去勢手術をすることが、猫にとってもストレス軽減や病気予防(生殖器系の疾患など)につながります。
老猫:夜鳴きは「ボケ」だけではない
高齢になった猫が、夜中に突然大声で鳴き出すことがあります。「年をとってボケちゃったのかな(認知症かな)」と思われがちですが、ここで注意が必要です。
高齢猫の夜鳴きと甲状腺機能亢進症には、密接な因果関係があります。
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが出過ぎてしまう病気で、以下のような特徴があります。
- 食欲がすごくあるのに、どんどん痩せていく
- 目がギラギラして、妙に活発で攻撃的になる
- 夜中に落ち着きなく大声で鳴く
15歳以上の猫の約50%に認知機能の低下が見られるという報告がありますが、夜鳴きの原因は認知症だけではありません。甲状腺機能亢進症や高血圧など、治療可能な病気が隠れていることも多いため、安易に「年のせい」と決めつけないことが大切です。
出典: 高齢猫の夜鳴きについて – ユニ・チャーム ペット
もしシニア猫ちゃんが夜鳴きを始めたら、「もう年だから」と諦めずに、一度動物病院で血液検査を受けてみてください。病気が原因であれば、投薬や療法食で症状が改善し、夜鳴きがピタリと止まることも珍しくありません。
よくある質問:無視する?応える?鳴き声への正しい付き合い方
最後に、日々の生活で飼い主さんが悩みやすい「鳴き声への対応」についてお答えします。
Q. ご飯や遊びの催促(要求鳴き)がしつこい時は、無視すべきですか?
A. 鳴いている最中は「徹底的に無視」が正解です。
心を鬼にしてください。「ニャー(ご飯ちょうだい)」と言われてすぐにご飯をあげてしまうと、猫は「鳴けばもらえる!」と学習してしまいます。これを繰り返すと、要求が通るまで鳴き続けるようになってしまいます。
正解は、「鳴き止んで一息ついたタイミング」で褒めて、ご飯をあげることです。「静かにしていると良いことがある」と覚えてもらうのが、お互いのストレスを減らすコツです。
Q. 留守番中にずっと鳴いているようで心配です。
A. 分離不安の可能性があります。外出の前後を「サラッと」済ませましょう。
飼い主さんの姿が見えなくなるとパニックになって鳴き続ける場合、分離不安の疑いがあります。
出かける時に「行ってくるね、いい子でね、寂しいけどごめんね…」と過剰に声をかけたり、帰宅時に「ただいまー!寂しかったねー!」と大騒ぎしたりしていませんか?
これらは「外出=一大イベント」と猫に印象付けてしまい、不安を煽ります。出かける時も帰る時も、なるべく普段通り、淡々と振る舞うことが、猫を安心させるポイントです。
まとめ:鳴き声は猫からの「お手紙」。正しく読んで、もっと絆を深めよう
ここまで、猫の鳴き声の意味について解説してきました。
最後に、もう一度大切なポイントを振り返りましょう。
- SOSの判断: 「ギャー(異音)」+「うずくまり(姿勢)」+「食欲・排泄異常(状況)」が揃ったら、迷わず病院へ。
- カカカの正体: 窓際なら「クラッキング(正常)」、食事中なら「歯ぎしり(異常)」。
- 老猫の夜鳴き: 「年のせい」にする前に、甲状腺の病気を疑う。
あなたがふと感じた「おかしいな?」という違和感。それは、毎日愛猫を見ているあなたにしか気づけない、とても重要なサインです。
「病院に行って何もなかったら恥ずかしい」なんて思う必要はありません。何もなければ「健康でした!」という安心を買って帰ればいいのですから。
今日の愛猫の声は、どんな声でしたか?
「ニャッ」と挨拶してくれたら、「なぁに?」と返してあげてください。
その積み重ねが、言葉の壁を超えた、あなたと愛猫だけの特別な絆を紡いでいきます。
あなたが愛猫の「良き理解者」として、これからも穏やかで幸せな時間を過ごせることを、心から応援しています。


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